妻が浮気していることはわかっていたので、妻の車に盗聴器を仕掛けたところ、浮気相手と思われる男との電話で「好き」とか「早く離婚してほしい」とか、他にも性的な内容の会話がされていました。
録音内容が浮気の証拠として裁判で認められるためには、その内容と入手経路が問題となる可能性があります。
法律上の離婚事由を定めた民法第770条第1項には、第1号として、配偶者に不貞な行為があったとき
が挙げられています。
盗聴器によって入手した内容が、法律上の「不貞行為」に該当するかどうかが問題となってくるのです。
民法でいう「不貞行為」は、社会通念上の「浮気」とは必ずしも一致しません。民法でいう「不貞行為」は、肉体関係の有無が焦点となります。
たとえば、相手に好意を持つ、二人で休日に出かける、キスをするといった行為だけでは、肉体関係があったとは言えないため、法律上の「不貞行為」とは認められません。
ですから、録音内容についても、その会話から肉体関係があったことが明白でなければ裁判の証拠としては不十分だといえるでしょう。
引用:民法第770条
仮に有力な証拠となる内容が録音されていたとしても、盗聴という行為自体の違法性が問われる場合があります。
自宅や自家用車など、自分の所有物であれば問題はありませんが、妻の所有物に対して盗聴器を仕掛けた場合、プライバシーの侵害となる可能性があるでしょう。
また、たとえ自宅であっても、固定電話に盗聴器を仕掛けた場合には、有線電気通信法第9条にある有線電気通信の秘密は、侵してはならない
という規定に違反し、処罰の対象となりますので注意が必要です。
引用:有線電気通信法第9条
浮気相手の自宅に侵入して盗聴器を仕掛けた場合、プライバシーの侵害の他に、刑法第130条の住居侵入罪が成立してしまうおそれがあります。
さらに、盗聴器を取り付ける際、何かを壊してしまったり、改造したりすると、刑法第261条の器物破損罪にも該当しうるのです。
とはいえ、盗聴行為自体に違法性があったとしても、即座に証拠能力が否定されるわけではありません。刑事訴訟に関しては、日本国憲法第31条に基づき違法収集証拠排除の法則が働きますが、民事訴訟にはこのような規定は存在しないからです。
そのため、たとえ盗聴が不法行為であったとしても、それが裁判の証拠として採用されるかどうかは個々のケースによって判断が分かれると考えられます。
ちなみに、違法な手段による収集証拠の証拠能力について、東京高等裁判所昭和52年7月15日の判決でその証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるときは、それ自体違法の評価を受け、その証拠能力を否定されてもやむを得ない
としています。
違法性の程度が著しい場合には、排除されることもありえますが、それほど大きくない場合には、不貞の証拠として採用される可能性は残されるといえるでしょう。
このように、盗聴器で入手した浮気の証拠が裁判で認められるかどうかを一概に判断することは極めて困難です。
裁判を有利に進めることはもちろん、こちらの違法性が追及される事態を避けるためにも、専門家に助言を求められることをおすすめします。